〔01〕山路を登りながら、こう考えた。
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〔02〕世に住むこと二十年にして
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〔03〕春は眠くなる。
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(04) 恋はうつくしかろ、孝もうつくしかろ
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(05) しばらくこの旅中に起る出来事と
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(06)「おい」と声を掛けたが返事がない。
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(07)「また誰ぞ来ました」と婆さんが
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(08) 昨夕は妙な気持ちがした。
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(09) 仰向けに寝ながら、偶然眼を開けて見ると
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(10) そこで眼が醒めた。
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(11) 障子をあけた時には
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(12) 怖いものもただ怖いものそのままの姿と
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(13) 余が今見た影法師も
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(14) 恍惚というのが、こんな場合に |
(15) いつまで人と馬との
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(16) ぽかんと部屋へ帰ると
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(17) やがて、廊下に足音がして
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(18) 突然襖があいた。
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(19)「失礼ですが旦那は、やっぱり東京ですか」
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(20) 既に髪結床である以上は
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(21)「旦那あ、余り見受けねえようだが」
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(22)「どうです、好い心持でしょう」
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(23)「御免、一つ剃ってもらおうか」
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(24) 夕暮の机に向う。
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(25) 去れど一事に即し
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(26) この境界を画にして見たら
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(27) 古来からこの難事業に
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(28) 次に詩にはなるまいかと.
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(29) 花曇りの空が
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(30) またこう感じた。
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(31) 寒い。手拭を下げて、湯壺へ下る。
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(32) 子供の時分、門前に万屋という酒屋が
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(33) 古代希臘の彫刻はいざ知らず
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(34) 御茶の御馳走になる。
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(35) 取り上げて、障子の方へ向けて見る。
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(36) 老人が紫檀の書架から
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(37) もしこの硯について
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(38) 「御勉強ですか」と女がいう。
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(39) 鏡が池へ来て見る。
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(40) 二間余りを爪先上がりに登る。
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(41) がさりがさりと足音がする。
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(42) 画をかきに来て.
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(43) 山里の朧に乗じてそぞろ歩く。
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(44) 雨垂れ落ちの所に
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(45) 和尚の室は廊下を鍵の手に曲って
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(46) 鉄瓶の口から烟が盛に出る。
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(47) 基督は最高度に芸術家の態度を具足したる
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(48) 門を出て、左へ切れると
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(49) 三丁ほど上ると、向こうに白壁の一構えが見える。.
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(50) 寝返りをして、声の響いた方を見ると
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(51) 二人は左右へ分かれる。
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(52) 岨道の登り口へ出て、村へ下りずに
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(53)(終章) 。川舟で久一さんを吉田の停車場まで送る。
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夏目漱石の他作品は「作家別朗読」に公開。順次増やして行きます。
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